オートバイで行く縦走登山(北アルプス)

撮影記

登山口から山の頂上に登り、下りることなく次の山の山頂、そのまた次の山頂へと、稜線を巡って歩く縦走登山。

一般的なピークを目指す登山は、その途上の大部分は森の中をゼェゼェ、ハァハァと登るだけで、正直に言ってあまり楽しくは無い。

PENTAX-D FA24-70mm ISO100 F8.0 1/45 24mm

上の写真は北アルプスの表銀座縦走コース。

燕岳から大天井岳へと続く登山道だが、遠くには「槍」も見える。実に素晴らしい展望が続いている。

「いつの日か縦走へ」と思い続けていたが、私にはいくつかの超えなくてはならないハードルがあった。

1.体力
2.登山日数
3.オートバイ

1,2は中年サラリーマンなら大抵の人に当てはまるが、鍛えれば、そして会社の評価なんて気にせずに有給をとってしまえば解決できる問題でもある。

3のオートバイの問題だって「乗らなきゃいいじゃん!」という声はもちろんある。

しかし、それを言うとブログが成立しないので無視して進む。

オートバイの問題点は、まずは積載量の問題、バイクという乗り物は自動車のように何でも積めるわけでなく、特に登山用のリュックというものは型がしっかりして折りたたんだりできない。

次に、バイクは車のように仮眠を取ることができない。繁忙期の駐車場に早めに入ってスペースを確保し、夜明けまで仮眠を取るという事はバイクでは無理だ。そもそも、登山口の駐車場にバイクが停められるのかもよく分からない。

本当に登山には不向きな乗り物だ。

2020年の夏。旅行にも行けず、コロナ過の夏休みを利用して北アルプスに行ってきた。

同じような悩みを抱えるライダーの参考になれば幸いだ。

なお、このページの写真はすべてPENTAXのDFA24-70mmを使用しています。

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コース選び

夏休みとは言え、家族を放置して一人好き勝手に何日も出かけられるものではない。めいっぱい頑張って2泊3日。その日数で行けるであろう縦走コースで、さらに景色の良さそうなモノを絞っていったら、

北アルプス  表銀座コース

が残ったのであった。

参考にした登山本によると、表銀座コースは中房登山口から燕山荘→大天井岳へと進んで行くのが一般的のようだ。しかし、燕山荘へと続く登山道は「合戦尾根」という急登を上らなければならず、体力に不安のある私では厳しそうだった。

また今回起点とした一ノ沢登山口から、駐車場(後述)のある穂高駅へのアクセスはタクシーに頼らざるを得ないため下山を一ノ沢登山口にするのは具合が良ろしくない。

そんな事を考え、今回のコースは次のように考えた。

<1日目>
穂高駐車場 → (タクシー) → 一ノ沢登山口
一ノ沢登山口 → 常念小屋(泊)

<2日目>
常念小屋 → 大天井ヒュッテ(泊)

<3日目>
大天井ヒュッテ → 燕山荘 → 中房(登山口)
中房 → (バス) → 穂高駐車場

縦走は山のピークを結んで歩くため、途中でUターンしない限りは、登り口と下り口が異なってくる。

だからバイクで行く場合には下山した所から、バイクを停めた駐車場に戻ってこなければならない。

「穂高駐車場」は穂高駅の近くにある無料駐車場で、駅周辺は登山者向けのバスが発着している。もちろん帰りの「中房」からも穂高行きのバスは定期的に出ている。

バイク乗りのあるあるで、駐車場の情報を調べてもバイクが停められるか書いてある事は少ない。

安曇観光協会に問い合わせたところ、、

「車に限定しているわけではないので停めて結構です」

という事だった。

不安と緊張の一日目

出発数日前からずっと不安を感じていた。
2ヶ月前からビリー隊長※の元で鍛えたとは云え、体力の無いサラリーマンが、いきなり一人で縦走できるのか?

しかも、

カメラ、三脚角型フィルター!?

登山に関係ないモノを担いでいくのだ。

※Billy’s Boot Campはマジで効きます。

 

不安と緊張でろくに眠れないまま、深夜1時過ぎに家を出た。

ほぼ休憩することなく、4時半過ぎに「穂高駐車場」に到着する。思ったほどに車は停まってはいなかった。登山者らしきグループがちらほらと見受けられた。

着替やパッキングを済ませると、予約していたタクシーが駐車場に入ってきた。

こんな早い時間に登山口へと急ぐのは、ただ単に体力が無いから

何とか13時頃には宿泊地に到着しておきたい。

あまり遅いとテント場が埋まってしまう可能性もある。書いてなかったが体力が無い癖にテント泊だった。

 

一ノ沢登山口には、こんな早い時間にも関わず、職員がつめており登山計画書の回収を行っていた。

私も自宅で作ってきた力作(計画書)を提出する。

幾人もの登山者を見続けてきたであろう係員は、買い揃えたばかりの装備の私をチラ見して

「う~ん、素人さんには厳しいルートだねぇ」

「ハイ、却下!!」

なんて言うこともなく、

「今夜は雷が有るかもしれないから気をつけて」

と優しく送り出してくれたのだった。

 

登山口には経年劣化した「熊出没注意」の看板。

この年は、上高地のキャンプ場で女性が熊に襲われる事件も起きており、色あせた看板の文字が逆に不気味だ。

登山口からは、しばらく川沿いを進む。

歩き始めは蝶や花など見つけるたびにシャッターを押していたが、徐々にそんな元気もなくなっていく。

就学前ぐらいの小さい子が、私の横を元気に追い越して行った。

ゆっくりでも、少しづつでも、諦めずに前に進んで行く。

 

そして、出発から約7時間。

常念乗越に到着。

標準レコードは5.5時間。私としては頑張ったと思う。

 

余裕があれば常念岳を登ろうかと考えていたが、そんな余裕はどこにもなかった。

酒は百薬の長

にがい薬を飲んで休むことにした。

 

熊出没注意

テント場で、隣の方と世間話をしていた時のことだった。

何気なしに常念岳の方に目を向けた時、何か黒い物体がチラチラと動いているのが目にはいった。

観察していると登山道の上の方で、下山者が一箇所に固まって動けなくなっている。

え!?あれってじゃない??

画面中央の黒い点はクマさんです

カメラを持って常念小屋の方に走っていくと、小屋からも人がでてきていた。

「ママァ、くまさんだよぉーー」

後ろで小さな女の子が無邪気に喜んでいる。

これが正常性バイアスというのだろうか、私も、山小屋から出てきた人たちもノンビリと眺めている

乗鞍であった熊襲撃事件では山から駆け降りてきた熊が次々と人を襲っている。

今は、フガ、フガと土の匂いを懸命に嗅いでるクマだが何かのきっかけで、

いてもうたれぇ!

と、襲いかかってこないとは言い切れない。

追い払う人と、逃げる熊

だから、ここが絶対に安全というわけでは無いのだが、しばらく見ていると一人の男性がクマに近づいていく

ズンズンと熊に迫っていく!

熊としても、まさか人間から近づいてくると思わなかったのだろう。

「え!?、な、なんですかぁー??」

走り去る熊

予想外の事態に熊は逃げていったのだった。

しかし、その数時間後、今度は大天井岳へと向かう登山道の近くに現れる。

クマさんを眺める人

こちらも何やら地面の上をフガフガやっていたが、満足したのか、しばらくして森に消えたのだった。

でも、この辺りは明日の登山道の近くなんだよなぁ

 

歩行距離の少ない二日目

熊の襲撃に合うことも無く、二日目の朝を迎えた。

今日は、時間的に急ぐ必要が無いので、ゆっくりと身支度をして7時ごろにテント場を発つ。

 

灌木に挟まれた細い登山道をしばらく登っていく。

この辺りは昨日の熊の出没地点の近くでもある。
「狭い登山道でクマと鉢合わせにもなったら逃げようも無いなぁ」とビクビクしながら登っていく。

1時間も登ると稜線上に出た。
あいにくガスが出ていて視界が効かない。晴れていれば素晴らしい景色が見れたはずだった。

10時30頃。今日の宿泊地である「大天荘」に到着。今日はもう歩くことは無い。

雨と強い風の中、フライシートを飛ばされそうになりながらテントを設営する。

ビールを飲みながらテントの中でゴロゴロしていたが、午後になると嘘のように天候が回復した。

 

夕日の時間に合わせて「大天井岳」に登山開始。
この山荘の良いところは、大天井岳まで10分程度で行けてしまうところだ。

登り始めると三脚にカメラを固定して写真を撮っている人もチラホラ。

こんな山の上にまで、重い三脚を担いでくる物好きが多いことに驚いたが、カメラの先は沈む夕日より何か別の物を撮っているようだ。いったい何を撮っていたんだろう?

PENTAX-D FA 24-70mmF2.8ED 53mm f8.0 1/10秒 iso100

私も何を撮ろうかと色々と考えたが、最終的には夕日を撮っている人を狙ってみた。逆光が強かったので手前の岩肌が黒く潰れないようCOKINのハーフフィルターを使っている。

良し悪しは見る人に任せて、個人的にはフィルターを使う場面ができて良かったと思う。

PENTAX-D FA 24-70mmF2.8ED 24mm F3.5 54秒 ISO3200

雲が少し切れたので星撮りにチャレンジ。(場所はテント横)

外は冷たい風が強く吹いていて夏の盛りだというのに冬のような寒さだった。

 

地獄の最終日

今日の予定は燕山荘まで行って中房登山口へと降りて行く。

大天荘から撮った写真。
尾根を目で追っていくと、遠くに燕山荘が見える。

しばらく降りて、また、登って、降りては、登る・・・

こんな遠くまで歩くの!?という感じになる。

ツバメ山荘への道は見晴らしの良い尾根を歩く。これぞ思い描いていた「縦走登山」だ。

脚は3日目にして痛んでいたが、この景色で気を紛らわせながら燕山荘までは歩き通すことができた。

到着した燕山荘は、これまでの常念小屋、大天荘と違い、多くの登山客で賑わっていた。
少し昼食には早いが、中に入って「天ぷらうどん」を注文する。

カリカリの天ぷらに、出汁の効いたうどん。

山小屋でこんな旨いもんが出るなんて本当に驚いた

機会があったら食べてみて欲しい。

 

燕山荘からは登山口まで一気に下る。

「下りだから楽勝でしょ!」

っとタカを括っていたが、これが大きな勘違い

初日から燕山荘までの道のりも体力的に厳しいときはあったが、それも、この合戦尾根の下りが強烈すぎて記憶が無い。というか燕山荘までは楽勝だったと思い違いするほどだ。

北アルプス三大急登の合戦尾根について、巷の書き込みで「大した事ない!!」なんて書く奴がいたが、この時ばかりはそいつを本気で呪ってやろうと思った逆恨み)

撮影した写真でタイムを確認すると・・・

合戦小屋(12:43) → 第1ベンチ(14:33)

第1ベンチから登山口までは30分くらいだとすると2時間半ぐらいで登山口まで下りたことになる。

4、5時間苦しみ続けた記憶だったが、標準タイムに近い時間で下りてきたことになる。

本当か!?

客観的な証拠があっても信じられないほど長い苦しみであった。

ルートコースを逆にしていたら、軟弱な私の縦走登山は成立していなかったと思う。

 

コースタイム

最後にヤマレコで記録したコースタイムを載せてみる。
なお、携帯の電池消費が怖くてオン・オフを繰り返していたので時間は実際とズレがある。(特に二日目の宿泊地に到着したのは10時半頃)

今回は何とか最後まで行けたが、合戦尾根では何度も途中で辞めたいと思った。

合戦尾根は要注意である。

 

 

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